塵芥拾

ぽっと思いついたことを書いています。

1917 命をかけた伝令

『1917 命をかけた伝令』(2020年)

監督:サム・メンデス

主演:ジョージ・マッケイ

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 「アメリカン・ビューティー」007シリーズで有名なサム・メンデスの作品ということで公開前から期待していた作品でした。そして期待を裏切ることなく良い作品で、久々に劇場で二回も観ました。

 

 

 この映画、監督のサム・メンデスは有名ですが主演やその友人役の俳優はそこまで(日本では)有名な人ではないと思います。しかし随所で大物英国俳優が登場して、映画の雰囲気を支えていました。

 

 

 この作品、最大の特徴はなんといっても超長回し、全編ワンカット(映画を観れば分かりますが、一度明確に場面が切れるので全編ではありませんが)による撮影と言えます。今回はこれを軸にこの映画について話ができればと思います。

 

 まずはワンカット、長回しの利点に絡めながら話したいと思います。この映画のハイライトは、おそらく塹壕の上を走る場面でしょう。懸命に走る姿に心を打たれると思います。映画史において感情を伴う走りは、しばしば長回しで撮られます。悪い意味で話題となってしまった「寝ても覚めても」でも、最後堤防の上を二人が走りますが、そこも長回しです。逆に言えば、今回長回しだからこそ最後の走りが映えたとも言えます。さらに今回もう一つ仕掛けがあります。全編常に主人公を現在進行形で観客は観ています。主人公が困難に直面し倒れるも、文字通り立ち上がり前に進み続ける姿を観続けたが故、より感情移入しやすいつくりになっていると言えます。全編ワンカットは、過去に「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」などにも見られますが、ワンカットの特性を活かせているのは今回の作品ではないでしょうか。

 

 

 次に長回しの弱点に絡めながら話したいと思います。ワンカットの制約として、時間操作が不得手、スピード感、迫力が出しにくい、複数視点の映像は不可能というものがあります。つまり登場人物の回想や故郷で待つ人側の話をいれることが難しいと言えます。これは主人公のキャラクターや行動の動機を描くことを難しくしています。似たような主題を扱ったノーラン監督の「ダンケルク」は、登場人物の過去を描くことはありませんでしたが、陸海空の三視点から描くことで戦場表現に深みが生まれていました。この映画がその弱点をどう克服していたのか......。一つ目は写真です。この映画、随所に写真が登場します。ブレイクもそうですし、顔が出てこないドイツ兵の家族の写真も登場します。しかし一連の出来事のあと最後の場面で初めて主人公が写真を取り出します。ここで彼の家族への想いをうかがい知ることができます。二つ目は、トラック内の会話です。この場面ただただ意味のない会話が繰り広げられくつろいだ雰囲気がある一方、主人公はブレイクを亡くした喪失感に苛まれています。最後ブレイクの兄に主人公が伝えますが、ブレイクは常に愉快な話をする人だったようです。このトラック内の会話は愉快な話をしていたブレイクの不在を際立たせるとともに、主人公が使命を全うすることを決意する一つの契機になったと言えます。そして最後がフランス人の女性と赤ちゃんとの邂逅です。ここは分かりやすいところでしたね。故郷にかれの子供がいる可能性などが示唆されていました。

 

 

 

ワンカット、長回しの特性について全然語り切れていませんが、今回はこの辺にしたいと思います。この映画を大雑把に表現すると激熱少年ジャンプ映画とでも言えそうですね。(褒めてます)